無縁社会 (文春文庫)

無縁社会 (文春文庫) の詳細

他と交わることもなく過ごしていた老人が亡くなった。そのとき、町の皆が集まり、集会所でお葬式を執り行ったのが、記憶に刻まれている。食事時、醤油が切れたといって隣人が借りに来るような時代、住んでいる距離が遠くとも、自分の顔を覚えていてくれる親戚や遠い関係者がいる社会だったからこそ、死んでから発見されるということには、ならなかったのだろう。そのときから住む場所が都会へと変わり、時代が変わったいまでは、引っ越してきた隣人は挨拶にくることも少ないので、見知ることはないし、こちらから何か求めていくことも少なくなった。時代ともおもえるが、本書の世界が身に迫る。本書では、恣意的に無縁ゆえの恐怖に焦点が当てられているような気がするが、最後の章に紹介されている一度失った「つながり」を再び得た男性に希望を感じる。男性は離婚をし、子供を亡くす経験をすることで引きこもってしまったが、ある時、出会った幼い姉妹との交流を通じ、家族同然になり、姉妹の母親も含め、知り合いも増える。最期に親族に看取られること無く亡くなるが、それは姉妹やその家族との「つながり」を得た後の死であったはず。切れてしまった「つながり」は、そのままになるかもしれないが、つながることもあることを再認識した。だから、未来を憂い絶望を抱くより、「いま」を生きることに腰を下ろすことが不安を軽減すると思える。そして、そのとき、死を見据えて「いま」を生きることが、人生を豊かなものに変えてくれそうである。この意味において、本書は死というものの再確認において価値がある。